百物語
普通二種免許模擬試験の問題。 タクシーの運転手が、ガラス瓶に入った硫酸を助手席に置いたまま客を乗せた。 乗せるな。 乗るな。
近所の、割といいとこに勤めてる旦那の奥さんなんだが、座敷犬の散歩のついでに電柱を通信機にしてどこか我々の想像もつかぬところと交信しているようだ。 座敷犬は奥さんが交信している間じっとして待っている。そう躾られているという感じではなく、彼は下…
娘たちが斧を手にするとき、彼女が守ろうとしているものはなんであるのか。 それがわからない限り、父も母も俺もお前も寝首をかかれる。
電車で通勤していなかったことと、高い場所に行く機会がなかったことが僕が死ななかった理由らしい。ということは、ちょっと前までの僕は朝早く中央線で電車を待っているときにふと線路に飛びこんだり、お昼休みに屋上でお弁当を食べた後にフェンスを乗り越…
兄が妹の死体をバラバラにすることより、妻が夫の死体をバラバラにすることより、あっというまにプライベートが暴露されていくことのほうが怖い。 長々と放送されている妻の肉声はいったい何の冗談なんだろう。 吐き気がする。
愛国者か非国民か。 通知表の評価は二段階らしいよ。
何かを書こうとして、頭の中にあるものにうまく言葉を当てることが出来なくなることが多々ある。 老化現象なのかもしれないけれど、だとしたら、老化現象とはなんと恐ろしく苦しいものなのだろう。 この恐ろしさを解せず、また先人の言葉に学ばないままであ…
かつて処刑場であったという。 明治期というから100年ちょっと前。 造成すると人骨がごろごろと湧き出し、不動産屋は大枚はたいて魂鎮めの儀を行ったという。 そう語ってくれたあずまびとの客人に、京都の地下鉄に金がかかるのは、掘れば湧き出す人骨の年代…
大事に育てられた娘なのだろう。 騙されるほうが楽だと気づいた人間は自ら騙されることを選ぶということすら知らずに、騙している自分が優位であると信じて疑わない。 君が騙そうとしていることを相手は知っている。騙されれば本当の君と対峙することなくル…
友人が交通事故で入院したので見舞いに行った。 国道沿いのコンビニからいきなり出てきた四駆にぶつけられ五メートルほど飛んだにしては元気な様子。 右手右肩と左足の骨折で済んだようだ。 廃車になったバンバン200のかわりにDR400SMを買うらしいので、くや…
そういえば久しぶりに北白川バッティングセンターへ出かけたら、知り合いの風俗のお姉さんが子供を連れて来ていた。 福福しい女の子がお姉さんに抱かれてすやすや眠っていた。 出産祝いにドリンクカウンターで、缶コーヒーよりはましなドリップコーヒーを奢…
さてやくたいもないあやしい話をとエディタを立ち上げて、途方に暮れている。 地球温暖化は太平洋一杯に熱帯性低気圧を発生させ、国内では戦争への道がいよいよはっきり見えている。 現実がこんなに恐ろしいのに怪談の出る幕はあるのだろうか?
蜩が鳴いている。 こんな時間に。 どんどん近くなってくる。 今窓の下で鳴いている。 そっと覗いてみると、真っ白な服を着た骨と皮ばかりの女の人が笑っている声だった。 暑いのに震えが止まらない。
今年も地蔵盆の季節がきた。 去年、面白い話を聞かせてくれた町内会長さんは死んでしまった。
足し算と引き算で幸せを決めるのが当たり前なひとが当たり前の世界で弱いものは間引かれていく。 いっそ貧乏人の肉を金持ちが直接食らえば合理的。 間引かれた赤子の肉を食らうがいい。 wetなソイレントグリーン。 呪いは不合理ゆえに世界から弾き出される。…
鈴の音が聞こえる。 猫の首輪の鈴の音だ。
「俺を好きにならないと殺す」という人と「嫌だと言っても愛してやる」という人ばかりいる。
ねこがしんだ お酒をたくさん飲んでいるうちに名前を呼んだら生き返るんじゃないかと思えてきた 猫の傍らには母が供えたアジの干物とロウソクが揺らいでいる でも名前を呼んだらまたこいつは病気で苦しい思いをするのだと思うと呼びかけられない ねこーねこー
風が強くて家が揺れている。 なんか嫌なことを思い出しそうになったのでこれは家じゃなくて地面が揺れてるんだと思い込もうとした。 すんでのところでそのほうが怖いことに思い至った。
「加湿器の中からからおーいおーいって呼ぶ声がする」と書き残して知人が消えた。 学生時代から住み続けていたワンルームマンションは暖房も加湿器もつけっぱなしで、ご両親に乞われて同行していた僕は、コンビニ弁当やカゴに積み上げられた汚れ物といった独…
テレクラのサクラさんが行方不明になったらしい。 「旅行に行く約束して、あの子朝に弱いから部屋まで迎えにいったんやけどな、電気もテレビもつけっぱなしのままおらへんようになってた 」 きっとオフタイマーをセットし忘れたんだろう。連れていかれたんだ…
久しぶりに北白川バッティングセンターに行った。 知り合いの風俗のお姉さんが妊娠していた。四ヶ月だそうだ。 「それがなあ、口とか手は使ったけど、まんこ使った覚えないねん。不思議やろ? 」 不思議過ぎます。
変な落ち葉があったので撮ったのだが、これを見た友人がこの写真には蛾が写っていると言う。 どう見ても落ち葉しか写っていないのだが、友人ははっきりと蛾が見えると言って譲らない。 治療を勧めたほうがいいだろうか。
今まで聞いたことのある靴の中に入っていたもの。 上履きに画鋲。 梅雨の庭で蛞蝓。 解体現場で五寸釘。 南米を旅行中に大麻。 田舎に帰ったときの百足。 秋のキャンプ場で栗のイガ。 無修正画像の詰ったCFメモリ。 アマゾンのフィールドワークで蛭。 グラン…
あいも変わらず馬鹿みたいに下手な写真を撮る趣味がやめられない。 気が付くと結構な量のネガが溜まっていて、友人が来ると驚かれるくらいになってきた。 彼らの反応には二通りあって、一つは「えっちな写真はないのか」というものだ。自慢じゃないが僕にヌ…
「コマンドイートタイプ」という言葉を御存じだろうか。 知らなければそのまま知らないほうがいい。 知ろうとしてはいけない。
うちの町内では今日から地蔵盆が始まった。 ずっと抹香くさい。つうかいま十二時過ぎてるんだけどまだ線香が途切れていない。 人通りはとっくの昔に途切れてるんだけど。
今年の夏は蝉が少なかったように思う。 台風も次から次へとやってきて洪水が何度もおきてる。 小学生が小学生を殺している。 自衛隊が軍になった。 プロ野球の球団が一つ消滅しそうだ。球団どころかリーグすらも。 原発で事故が起き管理が杜撰な事がまた証明…
そして堀川署のGさんに報告した帰りに変わり果てたSに再会した。 GさんによるとSが堀川通りで婆さんに遭遇した日、そこで交通事故は起きていないということだった。
「人轢いたんならなんぼ酒飲んでてもわかるよ」 「ふんふん」 「あの婆さんは空から降ってきたんや」 「ふんふん」 「それに、あの婆さんはいまでも俺を追いかけてきとるんや」 「ふんふん」 Sがぎょっと天上を見上げた。 釣られて僕も見たが、別段なんのか…