二十一こ目

僕は深泥池とそこに生きてる草や木や鳥や蜻蛉が好きなので隙があったらカメラを抱えてほとりをうろついている。
ここは怪談の舞台として全国的に有名なようだが、ここで怪異を体験したことはない。
よく晴れた日曜日には隣接する公園で子供たちが走り回り、大小様々な犬がのこのこと散歩をするいたって暢気な場所なのだ。
僕がここで体験したもっとも不条理な出来事は、場違いなスバルのワゴンで乗りつけた、二十台前半と思しき若者が、ルアーロッドとタックルボックスを抱えて降りてきたので
「ここは釣り禁止ですよ」と注意したところ、
「キャストの練習するだけですよ」とぼそりと答えたことだ。
スバルには「自然サイコー!」とか「おれ自然主義者だし?」とか訳せそうな英語のステッカーがべたべたと貼ってあり、若者は高価そうな軽登山靴を履いていた。
僕には愛するものを切り刻むという趣味は理解できそうにない。