六十四こ目

 「加湿器の中からからおーいおーいって呼ぶ声がする」と書き残して知人が消えた。
 学生時代から住み続けていたワンルームマンションは暖房も加湿器もつけっぱなしで、ご両親に乞われて同行していた僕は、コンビニ弁当やカゴに積み上げられた汚れ物といった独身男性に馴染みの臭いが蒸されると、そして自分のものじゃないとこれほどまでに殺人的なものになるのだなと思った。室内の空気は臭気と湿気でゲル化しているんじゃなかろうか。呼吸しても肺胞が酸素をキャッチできていないんじゃないかと思うほど、息苦しくなった。
 そこで僕は気付いてしまった。
 暖房はともかく、加湿器がそんなにいつまでも加湿し続けていられるものなのだろうか、と。