五十九こ目

 あいも変わらず馬鹿みたいに下手な写真を撮る趣味がやめられない。
 気が付くと結構な量のネガが溜まっていて、友人が来ると驚かれるくらいになってきた。
 彼らの反応には二通りあって、一つは「えっちな写真はないのか」というものだ。自慢じゃないが僕にヌードを撮らせてくれるような女性の知人はいない。男は撮りたくないので論外だ。
だから色気もなにもない神社だの猫だの錆びた鉄骨だのの写真しかない。
 もう一つは「心霊写真はないのか」という反応。
 お寺だの道祖神だの深泥ヵ池だのをさんざん撮ってるんだから自分でも一枚くらいあってもいいと思うけど、残念ながらこれもない。
 まあどうしても欲しくなったらレンズの前に指を出したり埃っぽいところでフラッシュを焚けばいいような気もするけれど。
 そんな話を先日訪ねてきた友人に話していると、
「今日コンビニから貰ってきたこないだのキャンプの写真に凄いのが写ってたで 」
との返事。
 見せてもらうと、友人と彼の妻が湖のほとりで楽しそうにバーベキューグリルを前にポーズをとっている。湖面がややぎらついているいるが、対岸に見える山々の緑も鮮やかな、なかなかいい写真だ。
 「何処に写ってんの?」
「それな、M浜でのキャンプの写真やねん 」
湖だと思っていたのは海らしい。どおりで水面がぎらついてるはずだ。
「気付かへん?」と友人が言った。
そう言えば、M浜は太平洋に面した長い浜で、対岸はオーストラリアだか南極大陸だかになるはずだ。
 写真には盛り上がる入道雲の前にくっきりとした稜線の緑燃える山々が写っていた。