七十四こ目

友人が交通事故で入院したので見舞いに行った。
国道沿いのコンビニからいきなり出てきた四駆にぶつけられ五メートルほど飛んだにしては元気な様子。
右手右肩と左足の骨折で済んだようだ。
廃車になったバンバン200のかわりにDR400SMを買うらしいので、くやしいので左足のギプスに陰嚢と陰茎を陰毛付でマジックで描いているときだった。
「でも事故するときはなんか予感ちゅうか前触れみたいなんあるよなあ」
と、しみじみと言った。
なんでも事故の数日前から、どこにいても自宅の電話がなる音が聞こえていたという。通勤中も、仕事場でも、飲み屋でも。
「最初は空耳と思ってたんやけど、事故の前の日に、おやつの時と帰る間際に聞こえたんやわ」
そして帰宅すると、ちょうどその時間に留守録が入っていたらしい。
「そんでな、事故ったとき、道路に寝転んでたら電話の鳴る音が聞こえてきてな」
誰がかけてきたんだろう。
あーでもなんか右半身すげえ痛いしもう留守録も聞けねえかもなあ。
などと思っていると、呼び出し音が突然やんだ。
まるで誰かが電話を取ったみたいに。
「オカンに見に行ってもらったら、留守録はなんにも入ってなかったっていうしな」
「そういうこともあるんやねえ」
と、陰毛を描き終えた僕は答えた。