七十五こ目

 大事に育てられた娘なのだろう。
 騙されるほうが楽だと気づいた人間は自ら騙されることを選ぶということすら知らずに、騙している自分が優位であると信じて疑わない。
 君が騙そうとしていることを相手は知っている。騙されれば本当の君と対峙することなくルーティーンをこなすことができることを相手は知っている。
 君のような少女が人を騙すなんて思ってもいなかった、と、そう言えば君が騙そうとした努力を突き崩しながら相手は安全圏に脱出できる。
 君の母はすべてを知りながら毒を飲んだのだ。
 それが罪であり同時に罰になることを知っていたから。